山行 霧氷広がる天下の険 箱根駒ヶ岳~神山
箱根の山は天下の険、函谷関も物ならず・・・滝廉太郎作曲の箱根八里に謡われるように、箱根の山は東海道の難所とされてきたが、高さとしては標高1,438mの神山を主峰に、駒ヶ岳(1,356m)、金時山(1,213m)、明神ヶ岳(1,169m)など1千mほどの低山の集合で、何より豊富な温泉を有する一大レジャースポットであり、登山後に温泉で汗も流せて、初心者、ファミリー向けの山といえる。しかし、富士山と相模湾、駿河湾の中間に位置しているため、夏は濃霧が立ち込め、冬は降雪が多い。強風の日も多く、箱根のもつ気候の厳しい一面に驚かされることもある。
箱根全山は40万年ほど前から活動を始めたひとつの火山で、東に鷹巣山~浅間山~明星ヶ岳~明神ヶ岳、北に金時山~長尾山~丸岳、西に三国山、南に鞍掛山~大観山~白銀山と東西約10km、南北約13kmの外輪山が囲む。その内側には仙石原や宮城野・強羅などのカルデラとカルデラ湖の芦ノ湖が広がる。そして中央火口丘の神山、駒ヶ岳、二子山がそびえる構造になっている。
12月中旬、中央火口丘、最高峰の神山に登ってみた。神山へのルートは北に位置する大涌谷から南の駒ヶ岳に抜けるものだが、大涌谷は標高約1千mに位置しているため、物足りない気がしたので、東側、ケーブルカーとロープウェーの乗継駅である早雲山駅(標高約760m)前に駐車場があることを思い出したので、そこへ向かうことにした。・・・が、早雲山駅前には20台分ほどの駐車スペースがあるのだが、「お客様専用駐車場」の表示が掲げられている。さすがに長時間ここに駐車して登山できる状況ではなさそうなので、大涌谷の駐車場に向かった。
まだ観光客もほとんどいない大涌谷を9時に出発した。大涌谷の噴煙地への観光ルートとは別に神山方面への登山道に入った。登山口の鉄扉には「火山ガスの噴出に注意。立ち止まらないでください。」と表示が出ているが、折から風が強いので少しは安心である。正面にそびえ立つ冠岳に向かって、噴煙があちこちで吹き上がる斜面の中に延びる登山道を登っていく。立ち枯れの樹木や黄色っぽい土砂が露出し、地獄に落とされた亡者のような気分である。硫黄の臭気が鼻を衝くのでいつもよりは息苦しさも感じる。
噴煙地を抜けると、まっすぐ神山への直登コースと、左手に神山を迂回して駒ヶ岳方面に向かう「お中道」と呼ばれるルートに分岐する。この日は晴れていたのだが、中央火口丘の山は今ひとつ雲が晴れない。ここは後々晴れることを期待して、まず時間稼ぎも兼ねてお中道を迂回し、晴れた頃合に神山に登ろうと思い左折した。山陰になる迂回路は、1度降った雪が路面の岩にこびりつき凍結していて危なっかしい。間もなく早雲山駅方面への分岐を分かれると、樹林が深くなり道が安定してきた。時折眼下に強羅温泉郷が見下ろせ、その向こうに明神、明星の外輪山尾根が見えている。こっちの寒々しさに比べて、外輪山は日が当たっていて暖かそうである。
お中道を40分ほど歩くと、神山と駒ヶ岳の中間にある十字路に到達した。この頃は晴れるどころか雲がかかって、冷たい西風がビュービューと吹き付けていた。十字路を右折して駒ヶ岳山頂を目指す。駒ヶ岳の山腹に一歩踏み出すと、霧が樹木に付着し凍りつく霧氷に一面覆われていた。箱根の霧氷は噂で聞いたことがあったが、お目にかかるのは初めてである。春は花の彩り、夏の深緑、秋の紅葉、そして冬は白銀の世界だが、樹氷というものは蔵王など雪深い地方の遠いイメージであったが、意外と身近に楽しめるものだ。
駒ヶ岳の山頂は、普段は丈の低い箱根竹に覆われた明るい広々とした場所で、ハイカーで賑わう場所であるが、この日は冷たい突風が吹く荒れる地獄のような様相で、人気は全く皆無であった。絶え間なく吹き付ける冷たい突風の直撃を受けていると、急激に体温を奪われる。新田次郎の山岳作品「聖職の碑」では、木曽駒ヶ岳登山中の中学児童と引率の教師らが台風の直撃を受けて遭難した史実を題材にしているのだが、その中で冷たい突風の直撃を受けた児童が一瞬にしてバタバタと倒れるシーンがあるのだが、「あれは本当なんだ!」という実感が込み上げて、偶然同じ駒ヶ岳ということもあり少々恐怖を覚えた。
駒ヶ岳山頂(1,356m)の神社で折り返して、今度は十字路を直進して神山にとり付いた。神山はアセビ、ウツギ、ブナ、ツツジなどの樹木に覆われ、余り展望はきかない山であるが、標高を上げるにつれてこちらも霧氷が見られ、時折雲間から覗く青空とのコントラストが最高である。駒ヶ岳山頂から小1時間ほどで神山の山頂(1,438m)である。神の名のとおり、山岳信仰上この山は神として崇められ、駒ヶ岳神社で祭事が行われるという関係である。山頂は樹木に覆われているが、東や北の方角が少し開けて駒ヶ岳や冠岳が望めた。駒ヶ岳の山頂は今更ながら雲が晴れて、相模湾に浮かぶ初島まで望めたのが悔しい。山の天気は読めないものだ。
正面に真っ白な冠岳を眺めながら神山北面を下る。間もなく冠岳方面に分岐するので、ちょっと寄り道。今度は霧氷に覆われた神山が美しい。
霧氷地帯が終わると、大涌谷方面に急降下し、やがて噴煙地が眼下に広がってきた。多くの観光客が訪れているのが見え、その向こうに金時山、長尾山など外輪山北側、更に愛鷹山や雲に隠れた富士山も見えた。駐車場に近づいた頃、正午の時報である「箱根八里」が聞こえてきた。
お土産に名物「黒たまご」を買って帰った。子どもたちはなぜか大喜びであった。
☆メンツ:単独
★コースタイム:3時間5分(休憩含む)
大涌谷駐車場9:00→9:20早雲山分岐→10:00駒ヶ岳下十字路→10:20駒ヶ岳山頂10:25→
10:40駒ヶ岳下十字路→11:10神山山頂11:15→11:25冠岳山頂→11:45早雲山分岐→12:05大涌谷駐車場
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